「ちょっと冷えるな。」
「そうね。 …明日はいよいよ卒業式ね。」
「ああ。」
「宏海の制服姿も明日で見納めかぁ… 高校生活、どうだった?」
「そうだな… 周りに振り回されてばっかだったけど、楽しい事もあったかな。 ガッコが楽しいと思ったのは小学生以来かもしれねえな。 ただ、アイツらには散々迷惑もかけられたから、感謝するとこまでは行かねえけどな。」
太臓達にはあたしも散々迷惑をかけられたけど……宏海が楽しかったと思えるのなら、もういいわ。
「明日はラブデスが終わる頃に学校に行くね。 一緒にお昼ご飯食べよ。」
「ああ。 …っと、そうだ、手ェ出して。 これやるよ。」
そう言うと宏海は立ち止まり、ポケットから何かを取り出し、同じく立ち止まった矢射子の手のひらの上に置いた。
それは、見覚えのある紋章付きの、数センチの丸いもの……制服のボタン。
「宏海……これ……」
「明日でも良いんだけど、騒動に巻き込まれたら失くさねえとは限らねえし。」
「貰っても…いいの?」
「俺もリボン貰ったから。 ラブデスには仕方ねえから『捜す側』で出るけど、俺のボタンは矢射子に渡しとくから。」
手のひらに置かれたボタンは、宏海のポケットに入っていた為か少し温かい。
矢射子はそれを、大事そうに、愛しそうに見つめると そっと両手で包み、目を瞑り それを胸に抱いた。
宏海からボタンを貰えるなんて、思ってもみなかったけど…
これって、あたしの事をちゃんと想ってくれてるって、考えてくれてるって事だよね。
同級生じゃないからリボンとボタンを同時に交換する事は出来なかったけど、でもこうやって、貰えるなんて…
矢射子が目を開け、顔を上げて微笑むと、宏海は目の前で少し横を向いて照れ臭そうにしている。
「ありがと… 凄く嬉しい…」