本音を言うと、仮にもあたしという彼女がいるんだしラブデスには参加して欲しくない。 でも参加しないとなると悠や太臓がらみで宏海が酷い目に合いそうだし…
だから参加するなとは言わないけど、でも『俺は矢射子が好きだから』とか、せめてそういう一言を言ってくれたら、たら、、、なんて、、、あの宏海に、そういう言葉を期待する方が無理なのかなぁ…はぁ…
悩んでいるのがありありと分かる様子に、あいすがまた声をかけた。
「恋愛に疎い彼氏を持つと大変ね。 …でも、宏海なら例え誰かに告白されても大丈夫なんじゃないの?」
なんだかんだ言っても、お互いに信頼し合っているのは見ていて分かるもの。
本来なら卒業している矢射子とあいすが顔を合わせる事は少ないはずなのだが、矢射子はドキ高や間界人がらみのイベントにはよく顔を出していたし、宏海と校門前で待ち合わせて帰る事も多かった。 これは、あいすがそんな2人を1年間見ていて自然に出た言葉だった。
「佐渡さん…」
「それから、宏海と付き合うって事は、もれなく悠と太臓が付いて来て騒動に巻き込まれるって事よ。
それでも付き合いたいと思う物好きな人は あなたしかいないと思うわ。」
「それは…褒めてるの? けなしてるの?」
「お好きなように。 あと、悠があまりにも好き勝手をするようなら、私に言ってくれたら何とかするから。」
「あ…ありがと。」
「じゃ、お先に。」
全く。 いつもみたいに、言い合いが出来るくらいの元気が無いと調子が狂って困るわ。
あいすは矢射子に背を向けてクスリと笑うと、お湯から上がり脱衣所の方へ歩いて行った。
矢射子は1人になると、湯船から出て髪と体を洗い、もう一度お湯に浸かった。
宏海はリボンを見付けたら全部太臓に渡すだろうけど…
でも悠が絡むとどんな騒動が起こるか予測出来ないし…
こんな些細な事を気にするなんてみっともないと思うけれど、付き合っている彼女がいるというのに平然とラブデスに参加されるのも面白くない。
宏海にそれをフォローする『甘い言葉』なんて期待するだけ無駄だと思うけど、けど、、何か言ってくれたらラブデスぐらいで動揺なんてしないのに…
白く立ち上る湯気を追いかけて視線を上げ、考えを巡らせる。
でも明日何が起こるかなんて、今ここで考えても分かる訳が無い。
何度考えても答えが出ないので、それ以上は考える事を止めて、明日は宏海と最初に待ち合わせていた通りラブデスが終わる頃に学校に行く事にして湯船から出た。
そして、着替えを済ませて髪も乾かすと、荷物を纏めたところで携帯の着信に気が付いた。
あれ? メール来てる… 宏海からだ!
宏海には銭湯に行く前にメールしておいたので、その返事が来たようだった。
件名:風呂屋だな。
本文:久しぶりに行きたくなったから俺も行くわ。 帰りは送るから出た所で待っててくれ。
え? 宏海が来てたの?? と言っても男湯には入れないから待つしかないけど…
慌てて外に出ると、丁度 宏海も出てきたところだった。
「わ、びっくりした。」
「お、同時だったか。」
矢射子は髪を乾かしていたが、宏海の髪はまだ少し濡れている。 きっと、矢射子を待たせない為に慌てて拭いて出てきたのだろう。
「…髪、まだ少し濡れてるよ。」
「今拭く。」
そう言うと、タオルで髪をゴシゴシと拭いた。
宏海の前髪が降りている姿は、今までも何度か見たけれど少し特別な感じがするからドキドキする。 あたしも今はいつもと違ってポニーテールじゃないけど、宏海はドキドキしてくれてるのかな。 あたしばっかり宏海の一挙一動にドキドキして振り回されてるみたいで何だか悔しい。
「こんなもんで良いか。 じゃ、送るから。」
「あ、ありがと。」
宏海は片手にシャンプー等を入れた風呂桶を持ち、空いている方の手で矢射子の手を繋いで歩き始めた。