例えば、
太臓達から守ってくれたり、
雪崩から守ってくれたり、
こうやって、私が銭湯に行くと言えば一緒に来て家まで送ってくれたり、
宏海は……言葉じゃなくて、行動で示す人、だよね。
甘い言葉は無くても、いつもあたしの事を考えて動いてくれてるのが分かるのに……何贅沢な事考えてたんだろ、あたし。
1年前のあたしが聞いたら泣いて怒るわね、きっと。
しばらくして、突然の小さなプレゼントに驚いていた矢射子に宏海が声をかけた。
「もうすぐ付き合って1年だし、記念にどっか行くか?」
「ううん、いい。」
「じゃぁ、何か欲しい物とか…」
「別に無いわ。」
「遠慮してんのか? 俺、あんまり金無えけどそれくらいは…」
「違うの。 遠慮じゃなくて…… あたし、こ、、宏海が側にいてくれるなら、それだけで十分だから……」
少し照れながらそう言う矢射子の顔には、幸せそうな笑みがこぼれる。
宏海の机にリボンを入れて、スキー旅行で告白して付き合える事になって1年が過ぎて、宏海が側にいてくれるのが当たり前になってたけど…付き合う前の事を考えたら、付き合えるようになっただけで奇跡なんじゃないかって思えるから…
「矢射子…」
宏海はそれだけ言うと、思わず矢射子を抱き締めてしまった。
「ここここ宏海…??」
宏海の腕の中には、突然抱き締められて明らかに焦っている矢射子がいる。
こうやって抱き締めるのは何度目かな、と宏海は思う。
今まで、親にだって誤解された事があるのに、ただ純粋に、何の見返りも期待せずに、正面から自分を見てくれた人なんて居なかった。
間界人達に振り回された高校生活だったけど、それが無ければ矢射子と付き合う事も無かったという事実を考えると、うっかりアイツらに感謝しても良いかも、とさえ思えてしまう。
「シャンプーの良い匂いがする。」
「え? あああ、シャ、シャンプーね。」
ななな何を今更焦ってるのよあたし。 1年間付き合って来た仲じゃない!
宏海は少し笑いながら矢射子を放すと、また手を取って歩き始めた。
「明日は…買物に行くか。 同じシャンプー買って俺の引越し先に持って行くから。 あと、茶碗とか箸とかも2人分欲しいから選んでくれ。」
「うん! ところで…そのシャンプーは誰が使うの?」
「…矢射子しかいねえだろ。」
「えええ? そ、その、と、、泊まれるかどうかは分からないけど…」
「あ、いや、来たくなったらいつでも来れるようにしとこうかと思っただけで…先走りすぎたかな。 悪りぃ。」
本当はずっと側にいて欲しいくらいだけど、無理は言えねえよな。
「ううん、嬉しい。 ありがとう!」
宏海の居る場所に、いつでもあたしも行っても良いって事だよね。
手を繋ぎ、しばらく無言で歩いていた2人だったが、その内矢射子がいきなり声を上げた。
「あー! すっかり忘れてた!」
「何だ?」
「お風呂上りにフルーツ牛乳飲もうと思ってたのにー!」
「…俺はコーヒー牛乳派だ。」
「え? そうなの? …1年付き合っても、まだまだ知らなかった事って沢山あるね〜」
「そうだな。」
ごく普通の事でも、2人でいると特別な事のように思える。
こうやって、側に居て、今まで知らなかった事を見付けるのが凄く楽しい。
この時、2人同時に同じ事を思ったのだが、それを知っているのは2人の間をくすぐるように吹いた春の夜の風だけだった。