もうすぐ一年
ねえ、今、
幸せですか?


『問いの答え』


高校も卒業し、宏海の一人暮らしとなる新居にての引越し作業も落ち着いてきた。
近くで買ってきたペットボトルのお茶を持ってきて飲んでいると、突然矢射子が口を開いた。
「ねえ、宏海はあたしと付き合ってて幸せ?」
尋ねられた宏海はキョトン、という表情を浮かべ、振り返った。
ちょっと逡巡したように黙った後、不思議そうに口を開いて尋ね返す。
「なんで、んな事聞くんだ?」
「し、質問に質問で返さないでよ!」
困ったように矢射子が反論するが、宏海が本気で首を傾げているのを見て、それ以上言いそうになった口を閉じた。
むぅ〜……
少しだけ拗ねたような表情を浮かべたが、いつまでもその表情でいるわけにもいかないと自覚したのか、俯いてぼそぼそと話し出した。
「……だって、あたし宏海を振り回してばかりだもの……」
付き合って一年。色々な思い出ができた。
去年の合格発表にて不合格と知って泣いた時、慰めてくれた。
少し遠くまで行こうと花見に行った時、自分達の関係を堂々と言ってくれた。
初めて手を繋いで、お互い顔を赤くした。
お互いの誕生日やクリスマスには、二人とも知恵を絞ってプレゼントをあげた。
バレンタインには手作りチョコを矢射子から。
ホワイトデーには手作りクッキーを宏海から。
それぞれ貰って、お互いに「美味しかった」と言い合って。
笑い合った事ばかりじゃなく、喧嘩もした。
でもその度に、周りの協力もあって仲直りできた。
笑って、喧嘩して、また笑って、今がある。
けれど、時々不安になってしまう。
思い返せば、自分のワガママで宏海を振り回したことが多い。
だから、幸せと感じているのは実は自分だけじゃないのだろうかと思ってしまうのだ。最近。
そんな事ないって、信じているけど、でもやっぱり、不安がある。
思い過ごしだと信じたいからこそ、今勇気を出して聞いてみたのだ。
「…………なんだ、んな事か」
「『そんな事』って!?」
思わぬ答えに怒りが少々湧き出る。
だが、顔を上げた先に見えたのは宏海の笑顔。
呆れたような、でも苦笑いとかじゃない笑顔が、そこにあった。
「一年付き合ってきたんだろ。だったら答えなんか分かってるじゃねえか」
頭を撫でられて、頬が赤くなる。
何度撫でられても慣れない。でも、心地よい。
「それとも、あの時のオレの告白、まだ信じられねえのか?」
「ううん!!」
即答で否定した矢射子に、宏海が満足そうに笑う。
「じゃ、さっきの矢射子の質問の答え、分かってるよな?」
コクン、と今度は頷いて答える。
目線が合う。数秒絡んで、それから――――
唇を、触れ合わせた。
惜しむようにそっと離して、また見詰め合って、どちらからともなく笑いだす。
「わっ!」
ぽすん、
いきなり引っ張られて、矢射子の顔が宏海の胸に埋まる。
バランスよく座っていたはずの態勢が崩れたために、矢射子の体は半分宏海に折り重なるように寄りかかっている。
あぅあぅと混乱しかけたが、宏海の心臓の鼓動を肌で感じて落ち着いてきた。
抱きしめられている。その事を実感して、幸せに頬が緩む。
そんな彼女に、かけられた一言。



「幸せだよ、オレも」



矢射子からは見えなかったが、宏海も耳を赤くしながら幸せそうに微笑んでいた。










貴方は幸せですか?
私は幸せですか?
答えはもちろん、
「幸せです!」




〜fin〜